何かで読んだのだが、誰かがラフマニノフに『何故バイオリンソナタを書かないのですか?』と尋ねたら『チェロという楽器があるから』と答えたとか… いや嬉しいですねぇ!

レパートリーが少ない為、編曲物、フランクとかのばよりんソナタを弾いたりしているチェロ弾きにとっては、とても嬉しい言葉です。

同じ弦楽器であるバイオリンと名曲の数を比べると、チェロの名曲はとにかく少ない!

これは、オケの入団試験や、学校の試験に顕著にでていて、例えばヨーロッパのオケの入団試験、チェロの場合、ハイドンのコンチェルトの2番が必修、ロマン派の作品としてドボルジャークかシューマンを弾かなければならない。

バイオリンはというと、モーツァルトのコンチェルト3~5番の中から1曲(必修)、ロマン派の作品とし、ベートーベン、ブラームス、メンデルスゾーン、チャイコフスキー等の中から1曲。選択肢が沢山あるのだ!

バイオリンの連中が自分に合った曲は…とか言ってる横で、我々は年中ハイドンハイドンハイドン…

学校の試験でも、自分が弾く曲を誰か他の人も必ず弾く!隣の練習室で同じ曲を練習する事の気になる事気になる事…全く集中できません…

何故昔の作曲家はチェロの作品沢山書いてくれなかったんだろう…と思ってるチェロ弾きにとって、ラフマニノフの言葉は嬉しいですねぇ!

そしてまたこの作品が最高にロマンティック!チェロの長所をたっぷり楽しめる作品なのです!

例えばこの曲をバイオリンで弾いたら…フルートで弾いたら…いやいや、この曲、旋律はチェロの為の物であり、チェロでしかだせないロマンティズムなのです。

私にとって思い入れがある曲で、名チェリストのシャピロの魂を燃やすような熱演に涙が止まらなかった事や、毛利先生のロマンティックな演奏等、名演を聴いてきています。

それだけ演奏者からも愛される曲なのでしょう。私自身、初リサイタルでメインに弾きました。

これぞチェロという音楽を聴きたい、チェロの魅力たっぷりの曲を聴きたいという人にお勧めです。

ラフマニノフチェロソナタお勧めのCD

私のお勧めする名演です。

トゥルルス モルク(VC)
物凄い美音に上質なビブラートをたっぷりと上乗せしたモルクのチェロは、この曲をとても清潔で、それでいてロマンティックに仕上げてます。絶品。

アルト ノラス(VC)
私の学生時代のお気に入り。今あらためて聞くと、もう少し華やかさがあったらいいのにな、とも思うが、思い入れ深い演奏でお勧め。

曲目解説

以下の解説は、佐藤 智孝チェロリサイタルの為に書かれたもので、難波氏の同意を得、ここに掲載しています。

ここに掲載されている解説の転載はご遠慮ください。

セルゲイ・ラフマニノフ チェロソナタ ト短調 op19
     
解説  難波 研 (作曲家)

ピアノ協奏曲第2番や、交響曲第2番などの名曲で知られるセルゲイ・ラフマニノフは1873年にロシアのオネーグで生まれ、1943年にアメリカのビバリーヒルズで没した現代のロシアを代表する作曲家。

裕福な家庭に育ったラフマニノフは早くからその音楽的才能を開花させ、12歳でモスクワ音楽院ピアノ科に入学、18歳で卒業した際には同期のスクリャービンと2人同時に首席になったと言う逸話も残っている。

翌年、同院作曲家を卒業し卒業作品である歌劇『アレコ』がチャイコフスキーの目に止まり上演され、作曲家としての彼の活動が始まる事になる。

作曲家として順調な船出をしたかに見えた彼だが、1897年の交響曲第1番の初演での不本意な失敗に悩み(初演を指揮したグラズノフの不得手が失敗の主な原因であったと言われている。)神経症にかかり、作曲する事をやめてしまう。

しかし、当時モスクワで高名であった精神科医、ニコライ・ダール博士の催眠療法によって創作意欲を取り戻し、1901年に名作『ピアノ協奏曲第2番』を産み出し、その成功により作曲家としての名声を確保し、優れたピアニストとして名を馳せる事に繋がった。

今夜演奏されるチェロソナタは、そんなピアノ協奏曲第2番と同時期に作曲された、メランコリックでロマンティックな情緒漂う非常に素晴らしい作品。

チェロソナタであるにもかかわらず、ピアノが華やかで技巧的に動き回り、時としてチェロから主役の座を奪ってしまう部分が多々ある事がこの曲の特徴の1つであるが、それは彼が優れたピアノ奏者であった事と無関係ではないだろう。

しかし、その様にピアノの華やかな技法を駆使しながらも、『チェロ独奏つきのピアノソナタ』にはなっておらず、しっかりとチェロを歌わせた大変魅力的な作品に仕上がっている事が彼の優れた作曲能力を示している。

全4楽章からなるこの曲は1901年に友人のチェリストであるブランドゥコノフの為に書かれ、同年モスクワで初演された。

第1楽章 レント~アレグロモデラート

ゆっくりとした哀しげなメロディが美しい序奏の後、アレグロモデラートの主部に入る。

主部では息の長い旋律がチェロとピアノの間を行き来しながら終わりに向けて次第に熱を高め、勢いよく終わる。

全楽章の中で最も演奏時間が長く、ピアノ協奏曲第2番との類似を一番強く感じる楽章でもある。

第2楽章 アレグロスケルツァンド

3連の速いリズムによる部分と穏やかな部分との対比が美しく印象的な楽章。2つの部分が様々に組み合わされ、発展し、最後はピアノによる神秘的な和音の下降によって静かに終わる。

この楽章は特にチェロよりもピアノが目立つ部分が多く、それがこのチェロソナタ全体の独自性を高めている。

第3楽章 アンダンテ

まさにラフマニノフ、と言うような甘美な旋律が魅力的な緩徐楽章。

第4楽章 アレグロモッソ

ピアノによる元気の良い序奏に導かれて、流れるような美しい主部に入る。1楽章同様、終わりに向かって次第に高まるが、2楽章の最後に現われた和音が拡大されて再現され一度音楽を落ち着かせる。その後、音楽は勢いを取り戻し壮大に幕を閉じる。

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