時折、ホームページを見ました、というメッセージと共に、質問が来る事があります。

先日は、チェロの先生という方からも問い合わせを受けました。

すでに色々なページに書いていますが、チェロに関する質問を頂いても私の答えは一貫しています。

「自分の先生に教わるのが一番です」

もし、質問主がチェロの先生であるなら「ご自分で経験なさってきた事が一番と思います」

チェロを弾く事に関する考え方、弾き方はチェロ弾きの数だけあると思ってよいと思います。

では何故、このサイトでチェロの技術的な事まで書いたかというと、自分自身の復習プラス、様々な事情がありチェロを習えない方の一助になればと思い、書き始めました。(筆が止まって数年になりますが。。。)

部活動でチェロを始めた人が、先輩より「小指を使って弾いてはいけない(小指で弦を押さえない)」と習ったと聞いた時は、とても驚きましたし、もし最初にそう習ったら・・・そういうもんかと思ってしまうのも仕方が無いかと思います。

日本では音楽の教師は免許制ではないので、極端な話、今日チェロ買ってきて、明日からチェロの先生ですと看板掲げ、生徒を集めてお金取っても法には触れません。

ドイツでは、家で楽器を教えるにも専門教育を受け、教員資格を取る必要があります。

それと、書きづらい事でもあるのですが・・・教える事をビジネス?と考えている先生もいらっしゃる・・・というか・・・。

以前、某音大で教鞭をとった時、私は兼任で付属中高の弦楽合奏も持たされたのですが、ここで驚くべき体験をしました。

私の前任の先生より、引継ぎの時に「とにかく生徒のレベルが低くて下手で大変だった」と聞かされて・・・。

ただ、引継ぎの時にそれまでやっていた曲目のリストを見せられたのですが、チャイコフスキーやドヴォルジャークの弦楽セレナーデ等、弦楽合奏の天下の名曲がズラッと並んでいて、私はこんな難しい曲を中高生でできればたいしたもの、前任の先生は謙遜して言ってるんだろう、と思っていました。

で、初授業に向け、前の先生(因みに弦楽器の先生では無く、指揮者です。)は難しい曲を積極的にやっていたようだけど、私自身は私が母校、芸大の弦楽合奏の授業で学んだように、基本の古典からやろうと思い、モーツァルトの簡単な曲から入ったのですが、楽譜真っ白なのに生徒たち全く弾けない・・・昨年までやってきた曲よりはるかに簡単な曲なのに全然弾けない・・・。

というか、どう考えてもこのレベルの生徒たちでは昨年まで演奏会でやってきた名曲は弾けないのは一目瞭然(一聴瞭然?)

昨年までどうやってあの弾くだけでも難しい名曲の数々を演奏してきたのだろう、と思い、学生たちに

「昨年まであんな難しい曲で演奏会もやってたんだよね?どうやって弾いてきたの??」

「弓パクで弾いてました」

「弓パク???」

「弓浮かして弾いてる振りしてました」

と、当たり前のように堂々と返答され、ひっくり返りそうになりました。

それでどうやって演奏会やったのかと思ったら、本番は大人のエキストラを大量に入れて、エキストラが演奏していたとの事。(驚くでしょ?信じられないでしょ??でも本当なんです。私も驚きました。。。専門教育を施す音大でこんな事が実際に行われていたのです。田中文科相じゃないけど、教育の質を考えたくなります。えっ?お前はそれでどうしたんだって??私は勿論こんな間違った事は正さねばと、楽譜に書いてある音はちゃんと弾かないと、音出さないとダメなんだよ、って一生懸命言ったんですけどね・・・もはや自分が弾かなくても誰かが弾くものと皆思い込んでて・・・お手上げでした)

ばよりんの先生に事情聞いたら、その先生もそんな難しい曲合奏でやんないでくれ、と何度も直訴していたとの事。

絶句しました・・・。

例えば私のチェロの生徒で、基礎からしっかり教えるべく順番にエチュードやらせている段階で(どの先生も同じと思うけど)実技のレッスンでやってる曲の何十倍も難しい曲、絶対生徒に弾けないと解っている曲を合奏でやるとなったら・・・反対しますね。

野球で例えたら、マウンドからキャッチャーミットまで玉が届かない子にフォークボール投げさせるようなものです。

引継ぎの時、前任の先生(指揮が専門の方)は「生徒の下手さに絶対びっくりするよ~!!頑張ってねぇ~!!」と仰ったのですが、私的に一番驚きだったのは、生徒に弾いてる振りをさせて演奏会をさせてた事でした。

前任の先生が仰るレベルが低くて下手で話にならない学生たちは音を出さず弾いてる振りをし、大量に入った大人のエキストラが演奏しているので、結果としては、良い音がするかもしれませんが、ステージ上で弾いてる振りをする事が生徒にとって、何か一つでもプラスになる事が有るのか、そもそも、生徒が堂々と「弓パクで弾いてました。」と答えた状況(しかも、音楽を専門に勉強する学校で)は、恐らく誰もが驚き、心底呆れると思います。

これは相当特殊な例だと思いますが、先生の方で生徒はこの曲絶対に弾けないと解っていても、あえてその曲を与え、弾いてる振りをさせるという(生徒は弾いてる振りをするしかない?)先生もいらっしゃっいました。(前任の方なりのお考えが有ったのかもしれませんが、引継ぎの時の話から察するにサジを投げてたんだろうな・・・と。実際私も何の曲ならこの子達は弾けるんだろう・・・と頭を抱えました。生徒達、人前で弾いている振りをする事に何も思わなくなっていて、全然弾けないのに演奏会はやりたがる、という考えられない状態になっていました。人前で演奏するという事を真摯に考えれられない生徒たちに心底ゾッとしましたし、あくまで私の診断、私見ですが、楽譜に書いて有る音を弾かなくてもよいと思っている生徒たちを見て、前任の先生がなさった事は、これ以上なく残酷で音楽家を志す若き学生をダメにするやり方だと感じましたし、私を叱咤して教えて下さった先生方に改めて感謝した次第でした。)

チェロを弾くためには、練習が必要不可欠ですし、チェロを弾く経験が必要です。

私が教鞭とっていた時、私は自分の生徒に「野球の入門書読んで、フォークボールの握り方を見て、その握りでボールを投げてもボールは変化しない。フォークボールを投げるには、人差し指と中指でボールを挟んで、他人がボールを取ろうと引っ張っても取られない位の握力が付いて、初めて投げられる。チェロも同じで、弾き方を頭で解っても、練習してチェロを弾く筋肉を付け、体に覚えさせなければいけない」と説明していました。

大魔神佐々木投手がボールを人差し指と中指ではさみ、それを他の人が引っ張ってもボールが取れなかったのを見た時、フォークボールの秘密を知った思いでしたし、何故あれだけいるプロの投手でもフォークボールを投げられる人が少ないか、よく解りました。

極端な話、ボールを打つ事も「来たボールを打つだけ、ボールにバットが当たらないのはバカだ」ってなりますよね、フォイアマン風に言えば。。。(フォイアマンは、「そこに指が行けばその音が鳴るのに、そこに指が行かないのはバカだ」と言っていたそうです。。。)

ボールにバットを当てる為に、野球選手は黙々と体を鍛え、バットを振るわけです。

野球が大好きな私は、いつも野球の事で例えていましたが、私の受け持った生徒は皆女の子で、皆、ピンとこない顔をしていましたが。。。

因みに毛利先生は「フランス料理のコックになりたい人が、レシピ読んで作り方を知っても、包丁持ったことも無い、リンゴの皮も剥けないでは料理は作れない」と練習と経験の大切さを例えられてました。(フランス料理に縁の無い私ですが、ピンと来ました。)

因みにバルトロ先生は「水泳の入門書読んでも、実際に水に入らなければ泳げるようにはならない」と練習と経験の大切さを例えられてました。(水着美女に縁の無い私ですが、ピンと来ました。)

例え方は様々ですが、この道に進んだ方は、皆同じような事を言います。

チェロを音楽を活字で学ぶことは不可能なのです。(DVD見ても同じです。頭で理解しても、脳の指令が正しく伝わるかどうかは別の話なのです。)

どうか、私の駄文は頭の隅に置いておく程度にし、間違ってもご自分の先生に「サトーって奴のホームページにこんな事が書いてあった」等、報告するのはご遠慮ください。

ご自分の先生の言う事を身に付けるべく練習すべき、練習してください。

メッセージ頂いても、チェロの弾き方に関して私から言えるのは「自分の先生に教わるのが一番です」という事だけです。

えっ?因みにシュヴァブ先生はなんて例えたんだって??

シュヴァブ先生は・・・ちょっと違った持論をお持ちで・・・知り合って10年以上になりますが、いまだに私は先生から練習しろと言われたことが無いんですよね。。。

先生はいつも「チェロを弾くのは簡単だ、正しい弾き方で弾けば」と仰います。。。

・・・・・。

とはいえ、先生ご自身は若い頃、毎朝5時に起きて練習したそうです。

他の生徒から聞いた話では、一日14時間位練習していたそうです。

「チェロを弾くのは簡単だ」は、その膨大な練習から出た言葉なのかな・・・と私は噛み締めています。

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