シュバヴ門下で、ソリストとし最も世界的に活躍してるのが、ヤン フォーグラーである。

彼の父、ペーター フォーグラー(元ベルリン音大教授)もシュバヴ先生の生徒で、親子2代でシュバヴ門下だった。

因みに今世界的に活躍しているベルリンのフォーグラーカルテットは、ヤンと彼の従兄弟が結成したカルテットである。(結成間もなくヤンは退団し、後任チェリストには現ベルリン音大教授で、やはりシュバヴ門下のシュテファン フォーク氏が就任している)

幼少の時、父の手ほどきでチェロをはじめたフォーグラーは、比較的早い時期からシュバヴ氏に入門し、 バッハギムナジウム、ベルリン”ハンスアイスラー”音楽大学で引き続きシュバヴ氏に学び、19歳で伝統あるドレスデン国立歌劇場の首席奏者に就任。その後、一年間オケを休団しハインリヒ シフに学ぶ。

そして、オケを辞した彼はニューヨークに住み、ソリストとし目ざましい活躍を始める事となる。

私がシュバヴ先生に心酔し、師事していた時、”先生のような音をだしたい”と言うと、 シュバヴ先生は、「トモ、今まで沢山生徒教えてきたけど、皆違う音を出す。音は個性だから、違って当然だし、違わなきゃ、自分にしか出せない音を持たなきゃいけない。」と笑っていらした。

「それでもどうしても先生の音を出したいんです。ロストロポーヴィッチの音でもない、フルニエでもない、先生の音が目標なんです。自分だけの音も探求します。でも先生の音もだせるようにしたいんです。先生の音を出せる生徒は過去にいませんでしたか?」と必死に嘆願する私にシュバヴ先生は笑って、「私も自分の音は客観的に聞いてるわけじゃないから難しいけど、ただヤン フォーグラーの音は私に似ていると思う。彼は私がだして欲しいと思う音をだしている。」とおっしゃった。

それ以来、フォーグラーのCDを買い集め、シュバヴ先生の音をイメージしたい時などに聞いている。

因みにシュバヴ氏の録音は無い。大変面白いと思うのだが、CDを通して聞くフォーグラーの音は清々しい。

シュバヴ先生の音は大変にロマンティックというか良い意味でイヤラシイ。受ける印象から私にはあまり似ている感じがしないのだ。

開放弦というのは、弦を指で押さえてない状態の事なのだが、指で押さえてない為、ヴィヴラートがかけられない。

その為開放弦は、「初心者と大家が好んで使用する」などという冗談があったりする。最近はプラス「バロックチェリストが多用する」。

因みに私が曲中で使うと例外なくビャーッという不快な音がし、聞く人に苦痛を与え、私はダメージを受ける。

フォーグラーはモダンチェリストだが、ロマン派の作品でも古典でも、とにかく開放弦を好んで使っている。

聞いていて「えっ?こんな長い音で?」、あるいは「こんな所で?」、と思う所を開放で弾いている。

早いパッセージでも指の都合とかではなく、完全な意思を持って使われている彼の開放の音は、驚くほど多彩であり、そして清々しさを与えてくれる。

以前、鈴木秀美さんが開放弦の使い方とし、「ロマン派、印象派の絵画で、例えば真っ赤なスカートなんだけど、その中に白の絵の具で大胆に勢いのある線が入っていて、その白い線がまるで通り抜ける風の様な印象を与えてくれる事がある。そして、開放弦はそのように使う事ができる。」とおっしゃっていたが、これは至言だと思う。

私自身開放を使うときは、秀美さんが言ったような印象を与えられるように使いたいと常に思っている。成功した事無いが。。。

その扱いが難しい開放を多用し、そしてフレッシュな、時にはスピード狂のようなテンポで演奏される (メンデルスゾーンのソナタはテンポ5割増し!スリリング!)彼のチェロは、清潔感があり、聞き終わると、一服の清涼剤を頂戴したような気分になる。

歌心は、時にセンチメンタルで、ドヴォルジャークの協奏曲にカプリングされた歌曲は、名演である。(このCDはお勧め、必聴。

ドヴォコンに引用されてる歌曲を、オリジナル通りの歌と、そしてフォーグラーがチェロでアレンジして弾いている。

チェロで演奏されている歌曲は、ドヴォルジャークがヨゼフィーナに寄せた一途な思いを切々と伝えてくれる。(この彼の名演で、今後チェロのレパートリーに入っていくと個人的に思っている。)

私がシュバヴ先生の車に乗せてもらい、何処かに遠出する時、先生は必ず彼のCDを何枚か積み、そしてそれを聴きながら目的地に向かった。それがはたして私に聴かせる為だったのかは解らない。

が、CDを聴きながら「ここの歌いまわしが上手くなった」とかコメントする先生は、とても嬉そうで、なによりフォーグラーの思い出を語る先生は幸せそうだった。

「ヤンが新しいCDをだして、この前本人からプレゼントされた」と言って、それを聴きながら先生の車で旅行したのは、楽しい思い出でだった。

だが、チェロを弾く喜びや感動、お金では買えない事を沢山伝授して下さり、感謝の気持ちで一杯な先生に、演奏家とし何も恩返しができないでいる自分には、

少しばかり寂しい思い出で、フォーグラーのCDを聴くと、様々な思いが私の胸をよぎる。

ヤン フォーグラー氏ホームページ

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