チェロの右手の基礎練習、ボーイングの『基本の中の基本』とでも言うべきロングトーンについて、私が習ってきた事を解説します。




ボーイングの基礎練習

チェリスト佐藤智孝

ロングトーンはチェロに限らず、弦楽器の右手、ボーイングの基礎練習、基本の基になります。

私のチェロ人生で、ロングトーンの重要性を教えて下さったのは、ヴァイオリンの故・田中千香士先生でした。

弦楽器奏者が必ず身に付けなければならない右手のテクニック

上の画像は私が田中千香士先生のレッスンの後に座右の銘にすべく書いたメモになります。

私が大学時代に室内楽を師事した千香士先生は、弦楽器奏者が必ず身に付けなければならない右手のテクニックを弓の五大原則と名付けていらっしゃいました。

弓の五大原則

  • ロングトーン
  • デタッシェ
  • マルテレ
  • スピッカート
  • ソーティエ

千香士先生は、上記5つのテクニックを弓の五大原則とし、弦楽器奏者が必ず身に付けなければならないボウイングの技術と仰いました。

そして『弓の五大原則を修得すれば、右手は何でも出来る。マルテレが出来ればワンボウスタッカートが出来る様になる。スピッカートが出来ればリコッシェが出来る様になる。』と話されていました。

そして更に!レッスンでは『ボウイングはロングトーンに始まり、ロングトーンに終わる』と、弓の五大原則の中でも特にロングトーンの重要性をお話して下さいました。

私は千香士先生に弦楽四重奏をご指導頂いたのですが、ばよりん×2とびよら×1(本当はばよりんなのだけど、人数の関係で持ち替えでびよらを担当)の私以外の三人が千香士門下だったので、室内楽のレッスンながら、技術的な事、殊にボウイングに関しては深く掘り下げてご指導下さり、弓の五大原則は今でも私の座右の銘となっています。

そして千香士先生に弓の五大原則を教わって以来、私は必ず練習の最初にロングトーンをやる様に自分に課しています。

※後述しますが、ロングトーンと開放弦の練習(全弓を使う練習)は似て非なるモノです。

ロングトーンのレッスン

千香士先生にロングトーンの重要性を教わり、それ以来、毎日必ずロングトーンから練習を始める様になったワタクシ。

私の先生に課されたロングトーン

チェロのレッスンに於いても、私はバルトロ先生とシュバブ先生に『開放弦で伸ばせるだけ音を伸ばしてみろ!』とロングトーンをやらされた事が有りました。

因みに、バルトロ先生に言われたのはフランクのソナタの1楽章と3楽章、シュバブ先生にはユダス・マカベウスバリエーションの第二変奏を弾いている時に言われました。(チェリストの方ならば、『成る程ね!』と思われる事でしょう・・・。)

千香士先生に弓の五大原則を習ってから、私は必ずロングトーンから練習していたので、バルトロ先生の前でも、シュバブ先生の前でも1分位は音を伸ばせたと思うのですが、両先生共に『Nicht schlecht(まぁまぁだ)』と言われ、そして『チェロにおける弓は、声楽家で言えば息の様なモノ。』と仰り、両先生が共演なさってきた世界的な声楽家の呼吸の長さについて話して下さいました。

ロングトーンはボイストレーニング

チェロの弓は声楽家の息の様なモノ・・・というのは、オペラのオーケストラでソロチェリストとし、世界的な声楽家と沢山共演なさってきた両先生らしい例えだったと思います。

ビルスマのロングトーン

ビルスマと佐藤智孝

バルトロ先生とシュバブ先生のレッスンでロングトーンをやらされた私ですが、実は!ビルスマ氏のレッスンでもロングトーンをやらされました。

バルトロ先生とシュバブ先生には『伸ばせるだけ伸ばしてみろ!』と言われましたが、ビルスマ氏には『可能な限りゆっくりな弓で弾いてみなさい。』と言われて、アップボウだけでやらされました。

とんちの様なビルスマ氏のレッスンでしたが、可能な限りゆっくりな弓、且つ最初にアップボウでロングトーンをすると、腕の重さの掛け具合等で新たな発見が有り、新鮮な気持ちになった事を覚えています。

私もロングトーンは普段はダウンからばかり練習していますが、時々アップからスタートする様にしています。

追記

鈴木秀美さんの著書『通奏低音弾きの言葉では、』によると、ビルスマ氏は驚く程に長いスラーが簡単に出来る人だったそうです。

ロングトーンの賜物なのかもしれませんね。

ロングトーンは遠投の様なモノ

野球が大好きで、何でも野球の事で例える私は、自分の生徒に『ロングトーンは遠投の様なモノ』と説明しています。

プロ野球の試合を見に行った事が有る方はご存知だと思いますが・・・

両チームのバッティング練習、守備練習が終わり、試合開始30分前位になると、その日の先発投手が出てきて遠投を開始します。

速い球を投げるには遠投が一番

里崎 智也『非常識のすすめ』

球界を代表する名捕手の里崎 智也氏は、自著『非常識のすすめ』の中で、『速い球を投げたいのならば遠投が一番の練習である』という事を書いていらっしゃいます。

投手ならば、誰もが速い球、速球に憧れる事でしょう。

『投手が憧れの速い球を投げる為には、遠くに投げる練習=遠投が一番!』と語る里崎智也氏。

里崎氏によると『球の速い投手は遠投でも綺麗なボールを投げる。』との事。

因みに、名伯楽の野村克也監督も『投手の一番の練習は遠投!』と指導なさっていたそうです。

私自身、則本昂大投手と岸孝之投手の遠投は忘れられない姿となっています。

則本投手は、強風のマリンの中でも唸る様な低い弾道で遠投していました。

我が郷土の誇り、岸投手は、東京ドームの中で白線を引くかの様な低い弾道で遠投していました。

両投手共に、捕手が投げ返す山なりの球と異なり、低く真っ直ぐな軌道と速さが印象的で、私は里崎氏の著書に大いに納得でした。

野球のピッチャーは、せいぜいバント処理でセカンドに投げるのが一番遠い距離ですが、試合前は必ず遠投からスタートします。

里崎氏曰く『遠くに投げられるから近くにも投げられる。メジャーリーガーとなった上原さんや薮田さんの遠投は素晴らしかった』との事。

則本の唸る様な剛球も、岸の美しいストレートも、全ては遠投という基礎練習の賜物なのでしょう!

ロングトーンも同じで、それ故、私は生徒に『チェロに於けるロングトーンは、野球で例えるなら遠投の様なモノ』と解説しています。(生徒が野球に興味が無いであろう女の子でも、私は野球で例えます!)

ロングトーンの目的

チェロの作品の中で、一弓で1分の伸ばし…等というのは、まず無い・・・と思います。

チェロの作品で、最長の伸ばしが何秒位か、私は解りませんが、ロングトーンの練習の目的は、音を伸ばすというより、

  • 自分の音を聴く練習
  • 音の出し方を自分の身体で学ぶ練習

なのでは・・・と思っています。

開放弦の練習とロングトーンは異なる

先年、独学でチェロに取り組む方の練習の参考、一弓で1分位は伸ばせるんだよという事を伝えられたら・・・と思い、1分間のロングトーンを撮ってYouTubeにアップしました。

私自身、毎日の練習の開始時、そして本番当日は必ずロングトーンを練習し、1分出来れば『よし!いつも通りだ!!』と思う様にしていたのですが・・・

そういえばバルトロ先生とシュバブ先生に言われたのは『伸ばせるだけ伸ばしてみろ!』だったなぁ・・・と思い起こし、一弓1分のロングトーンという概念から『伸ばせるだけ伸ばす』と初心に返って練習する様になったら、90秒以上伸ばせる様になりました。。。

いつの間にか、惰性で音を伸ばしているだけになり、ロングトーンでは無く、開放弦の練習、全弓を使うだけの練習になっていたのだな・・・と猛省しました。

初心忘るべからずですね!

ロングトーンの定義

ロングトーンで一つ注意が必要なのは、開放弦の練習とロングトーンは似て非なるモノだと言う事!

何秒以上伸ばしたらロングトーン・・・といった定義は無い筈(少なくとも私は知らない)ですが、キャッチボールと遠投が異なる様に、開放弦の練習とロングトーンは似て非なるモノです。

シュバブ先生の開放弦の練習

シュバブ先生は、基本練習をさせるのが大好きな先生なのですが、先生の基礎練習の中に、様々な開放弦の練習が有ります。

参考までに、上の動画はシュバブ先生の開放弦での練習の一つです。

文字通り、開放弦だけで行う右手の様々な練習なのですが、そのシュバブ先生の開放弦の練習は、最大で一弓16秒です。

それ故、多分ですがシュバブ先生は16秒程度はロングトーンと認識していらっしゃらない、開放弦の練習と認識なさっているのだとと思います。

私も生徒に教える際は、『ロングトーンは最初は一弓30秒を目安に、伸ばせるだけ伸ばすつもりで(バルトロ&シュバブ両先生の教え)、可能な限りゆっくりな弓で(ビルスマ氏の教え)!』と課します。

ロングトーンの練習の仕方

  • 可能な限りゆっくりな弓で
  • 伸ばせるだけ音を伸ばす

ロングトーンを練習する際は、上記2つを意識して取り組んでみて下さい。

私自身、毎日楽器を出したら必ず最初にロングトーンを弾き、発音、弓の軌道を確認しつつ、腕の重さの掛け具合や掛かり具合をチェックしています。

自分の音を聞きながら一日1回、練習するだけですが、それでも真剣に毎日ロングトーンをやっていたら、私は一弓90秒まで伸ばせる様になりました。

ロングトーンから学べ

ロングトーンは、音を伸ばす練習・・・というより、

  • 正しい弓の軌道で弾けているか
  • 力を抜いた状態で無理なく腕の重さが掛けられているか

を確認する練習です。

一言で申し上げるなら・・・ロングトーンから学べ!

田中千香士先生のサイン

上の画像は千香士先生に頂いたサインになります。

『先生に弓の五大原則、ロングトーンの重要性を教えて頂いて以来、毎日ロングトーンから練習し、今では一弓90秒出来る様になりました!』と報告したら・・・、真面目な顔で冗談を仰る先生だったから『コツコツ頑張ったね!』とは仰らずに、きっと『物干し竿みたいな長い弓でも作ったの?』とか仰るかな・・・。

自分の音をじっくりと聴く練習として、可能な限りゆっくりな弓で伸ばせるだけ音を伸ばすロングトーン、お勧めです。

独学の方の参考になる事を祈りつつ

※ロングトーンは一日一回で十分です。今日中に一弓1分出来る様になってやる!と1時間とかロングトーンをやるのは無駄でしか有りません。今日の1時間よりも、毎日コツコツ一日1回の方が遙かに身に付きます。




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