チェリストが必ず学ばなければいけない作品というのが幾つか有りますが、その筆頭がバッハの「無伴奏チェロ組曲」で有る事に異論は無い事でしょう。
全部で6曲からなるバッハの無伴奏チェロ組曲は、番号が増えるにつれ、演奏が技術的に難しくなっていきます。
大変面白いと思うのですが、一世一代の大チェリストであったフォイアマンは、バッハの無伴奏組曲を1番から3番までしか演奏しなかったそうです。
4番以降を演奏しなかった理由は・・・「難しくて弾けない」と、人を喰ったようなコメントを残していますが・・・。
閑話休題、私自身も勿論、3人のお師匠様の下でバッハに取り組んできました。
その中で、音楽の真髄に迫る、音楽とは何かという至言を頂戴したエピソードを一つ。
ウィーンでバルトロメイ先生に師事していた時、たまたまテレビでヨーヨー・マのインタビューを見る機会がありました。
その中で、ヨーヨーマがバッハの無伴奏チェロ組曲に関して語っていたのですが・・・。
そもそも「組曲」というのは、同じ調のいくつかの舞曲をひとまとめにしたものです。
無伴奏チェロ組曲の場合、すべてプレリュード(前奏曲・組曲中唯一舞曲ではないです)で始まり、アルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット(第3番・第4番はブーレ、第5番・第6番ではガヴォット)、ジーグの6曲構成となっています。
それぞれの踊りには、それぞれ特徴や様々な由来があるのですが、ヨーヨー・マが、私が知らなかった、かつ大変興味深いことを言ったのです。
「サラバンドは、当時イヤラシイ音楽であり、教会での演奏は禁止されていました。」
・・・何??サラバンドが当時はイヤラシイ音楽であった??
思わず聞き間違えたかと思ってしまいました。。。
知らなかったぞ!!本当か??と思い、あわてて自分の資料をめくってみたのですが・・・確かに書いてあります。
「サラバントは当時はイヤラシイという理由で、教会での演奏は禁止されていた。」
・・・ははぁ・・・これは良い事を聞いた!!
それから次のレッスンまで、ワタクシ一生懸命サラバンドを練習しました、官能的に。(読者諸兄、笑う事なかれ!!)
ビヴラートを心おきなく普段の3割増しとふんだんにかけ、現代の教会でも禁止されるのでは?というR18指定サラバンド風に仕上げ、自信満々でレッスンに持っていきました。
で・・・サラバンドを弾き始めると・・・
バルトロ先生「トモ!!まさかと思うが弾きながら女性の事でも考えてるのでは無いだろうな??」
来た来た来たー!!!
流石は私なんかを弟子にした軽率な大チェリスト、見事に食い付いてきました。
「先生様!!恐れながら申し上げますが、そもそもサラバントとはイヤラシイ音楽であり、当時は教会での演奏は禁止されておりました。これは、歴史的な事実であります。私はこの歴史の重さを踏まえ、バッハの生きた時代に思いを馳せ、演奏すべきかと思うのであります。」(注・実際は語学が堪能ではないため、「サラバント!エロ!教会!ダメ!」の4語しか言ってないのですが、楽譜という不完全な記号から作曲者の意図を読み取り、感動的な演奏をする軽率だけど大チェリストのバルトロ先生は、私の言わんとしていることを即座に理解して下さいました。)
「・・・何??その方・・・サラバントが破廉恥な音楽であったと申すか??」
「御意。バッハの時代はサラバントは教会で演奏は禁止されていたという史実があります。我が君におかれましては、破廉恥な音楽とはこれまで無縁だったかと思いますが、サラバンドが教会で演奏を禁止されていたという歴史的事実は重いかと・・・」(注・実際は本日2度目の「サラバント!エロエロ!!教会!ダメダメ!!」と5割増しにしただけ)
「・・・知らなかったぞ・・・サラバンドが教会で演奏を禁止されていたなんて・・・。一体何がイヤラシイのだ・・・??朕には理解できん・・・。」
と言いながら、いくつかのサラバンドをチョロチョロと弾いた後、
「・・・解らん・・・。よし!!アーノンクールに聞いてくる。」
と仰いました。
バルトロ先生はアーノンクール氏を、歩くウィキペディアと思っている節があり、私が質問し、解らないこと等があると、いつもアーノンクールに聞いてくると言って、アーノンクール氏に教えてもらっていました。
で!!後日!!
アーノンクール氏にサラバンドがイヤラシイとされていた理由、教会でサラバンドが演奏を禁止されていた理由を教えてもらったそうなのですが・・・(細かい解説はここでは省略します。サラバンドが何故、イヤラシイとされていたか、何故教会で演奏を禁止されていたかを知りたい方は、ご自分の為にご自分で調べてくださいませ。)歴史的なことを含め、丁寧に説明した後、最後に一言アーノンクール氏が仰ったそうなんです。
「そもそも音楽なんてなんだってイヤラシイよ!」
バルトロ先生、この一言が大変気に入ったというか、目からうろこが落ちたらしく、この話を私に説明下さって以降、レッスンで「イヤラシイ」と注意される事も無くなり、それからは先生ご自身も心おきなく、ふんだんにビヴラートを楽しんでいらっしゃるように感じました。
先日、YouTubeでバルトロ先生がインタビューを受けている映像を発見しました。
上記映像、6分過ぎくらいから、何故チェロがイヤラシイ楽器であるかという事を話されています。
チェロはイヤラシイ楽器であるという事を力説するバルトロ先生。
「でも、サックスの音もイヤラシイよね?」
と問われ
「否、イヤラシイのはチェロだけである!!」
と真剣な顔で話されています。
「音楽なんてなんだってイヤラシイよ。」
至言ですね!!
余談ながら・・・バルトロ先生、サラバンドがなぜイヤラシイ音楽とされ、教会で演奏を禁止されていたのかをアーノンクール氏に聞く前に、今を時めくサイモン・ラトル氏・・・おっと失礼、Sir.サイモン・ラトル氏に質問したそうなんです。
実は、ラトル氏もサラバンドが教会で演奏を禁止されていた事実を知らなかったらしく、実に頓珍漢な説をバルトロ先生に仰いました。
バルトロ先生からラトル氏の見解を聞いた時、私は即座に「絶対違う!!」と思ったのですが、バルトロ先生はその珍説を「あり得る話だ!!」と仰っていました。。。
バルトロ先生、想像以上に軽率な大チェリストなのかもしれない。。。
トップページに戻る↓↓