ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ




ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンの為のソナタ

山口裕之と児玉さや佳

ベートーヴェンの作品は、教科書的に、初期、中期、そして後期の作品に分ける事が出来ます。

例えば、ベートーヴェンのチェロソナタは、1番と2番が初期の作品、3番は中期の作品、そして4番と5番が後期の作品であり、ベートーヴェンは生涯にわたってチェロソナタを書き続けていた作曲家になります。

それに対し、ヴァイオリンソナタは、その殆ど(90%)が初期の作品になります。

ベートーヴェンの若かりし頃の作品群

ベートーヴェンのヴァイオリンソナタは全部で10曲ありますが、その中の例えば9番『クロイツエル』と言うと、後期の作品、晩年の作品と思ってしまいそうになります。

ですが、クロイツエルソナタは実は交響曲第3番「英雄」よりも先に書かれた作品なのです。(一般的には初期の作品とされますが、作品番号としてはop.47になるので、中期と捉える事も有ります。)

ベートーヴェンは、自身が27~28歳の頃に第1番のヴァイオリンソナタを完成させると、6年の間に9曲のヴァイオリンソナタを次々に書き上げます。

そして、33歳の時にクロイツェルソナタを書くと、それから9年後の42歳となるまでヴァイオリンソナタは書きませんでした。

それ故、ベートーヴェンの場合、ヴァイオリンソナタは初期・若い頃に書き上げて卒業した分野とも言えるかもしれません。

ピアノとヴァイオリンの為のソナタ

日本語では『ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ』と訳される事が殆どですが、厳密にいうと、ベートーヴェンは『ピアノとヴァイオリンの為のソナタ』と綴っています。

ベートーヴェンのヴァイオリンソナタに於いて、ピアノは伴奏では無く、主旋律もヴァイオリンと同じ様に弾かなければなりません。

ピアノとヴァイオリンの為のソナタの楽しさと難しさ

ピアノとヴァイオリンのソナタの楽しさとして、ピアノの右手の高音とヴァイオリンの音域が同じなので、その掛け合いが面白い点を挙げたく思います。

例えば、チェロソナタの場合は、チェロの弾いたメロディーをピアノがなぞる場合、音域が上がっている事が殆どになります。

つまり、チェロソナタに於けるチェロとピアノの掛け合いはテノールとソプラノの会話の様な感じで、これはこれで勿論楽しいのですが、ヴァイオリンは同じ音域で語り合うので、ソプラノ同士(或いはガールズトークの様)の良い意味でキャッキャキャッキャした掛け合いを楽しめるのです。

但し!これは難しさでも有り、同じ音域でメロディーをなぞるだけに、フレーズの感じ方などが異なると・・・楽器の持つ音自体は違う訳ですから、非常に難しいデリケートな作業にもなります。

その代り、二人で交互に奏でるメロディーが姉妹が話している様な感じ、或いは演劇の中で主人公の『口に出したセリフ』と『心の中のセリフ』の様に紡ぎあげる事が出来た場合は、堪らない喜びとなります。

ピアノとヴァイオリンの為のソナタは2人で演奏しますが、2人で弾いているのにまるで1人で弾いているかの様で有ったり、或いは姉妹の会話の様で有ったり、そして特にベートーヴェンの作品は、まるでオーケストラが弾いている様に奏でる事が出来る、楽しめる形態となっています。

全曲演奏を経て

私は大学時代に副科でヴァイオリンを専攻しました。

そして幸運な事に、2012年から6年間かけて、私の桐朋のヴァイオリンの担当教員であった山口裕之先生とベートーヴェンのヴァイオリンソナタの全曲演奏に取り組む事が出来たのです。

NHK交響楽団の第1コンサートマスターとし、世界中のマエストロの下、ベートーヴェンの酸いも甘いも知り尽くした山口先生の充実し、有意義なリハーサルは、これ以上無い研鑽の場となりました。

先生の下で学ばせて頂いたベートーヴェンを、少しでも還元したく思い、ここで私自身が学んだことを中心に、私の視点でベートーヴェンのピアノとヴァイオリンの為のソナタについて語ってみたく思います。

沢山の感謝をこめて

児玉さや佳

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